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小説の感想、解説を書いていきます。

【短編】異端者の悲しみ/谷崎潤一郎

 

 

 

 

谷崎潤一郎の短編小説ですが、おそらく自分の体験が強く起因した作品となっているようです。

 

 

 

 

 

 

主人公の名は章三郎、大学を出、優等生としての才能を活かすことができないまま、実家にて放蕩の日々を過ごします。

 

 

そんな彼を、毎日あくせく働いている父や、家庭の貧困なる日々にヒステリーを起こしがちな母は、彼を自堕落で心のない倅だと後ろに見ています。

 

 

そして章三郎の妹は、肺病により長い命ではなく、ひたすらに自室で療養の日々を送っているという、陰惨な家庭空間が主な舞台となっております。

 

 

20世紀初期の作品ではあるものの、家族での哀れな諍いなどの場面は、現代にもよく問題視されるものではないかと思います。

 

 

しかしこの話のテーマは、そういった分かりやすい家庭問題を取り上げたものとは違うもののようで、谷崎潤一郎の耽美的な表現力や、善でも悪でもないような中立的な地の文が、谷崎潤一郎の才能として揺るぎないものとしていると私は思います。

 

 

時には主人公の内面を深く掘り下げ、そして主人公の家族や級友とのやりとりがまた各々の個性を確立させていく。

 

 

そのどちらにも幅がぶれすぎない微妙なニュアンスもありつつ、谷崎らしい力強さもまた死ぬことがないのです。

 

 

谷崎潤一郎の代表作として、『細雪』や『春琴抄』、『痴人の愛』などがありますが、もし私が谷崎潤一郎の作品の一つも知らない人におすすめするものでしたら、まごうことなくこの『異端者の悲しみ』を推したいと思います。

 

 

それくらい、お手本のような小説的展開もあり、純文学特有の文章表現も混じり合っているため、谷崎潤一郎を読んだことのない人は、是非読んでみてはどうでしょうか。

 


ではでは。