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小説の感想、解説を書いていきます。

【短編】『杜子春』芥川龍之介


芥川龍之介といえば、『羅生門』を始めとし、教科書にも採用される比較的読むのに苦労しない短編が多いイメージです。

 

今作も昔の唐の国を舞台にはしていますが、わりと読みやすく、子どもにも読めそうな内容です。

 

主人公である杜子春は、貧困に陥っている自分に救いを差し伸べる謎の老人のアドバイスを受けて、富豪の生活を手にします。

 

一気に金持ちへと変わった彼は、散財によりまたもや貧困へと戻ってしまいます。

そして、貧困になった彼の前へ再び老人がやってきて、言われるがままに従い、またもや金持ちへと変わりますが、また散財により逆戻りです。

 

杜子春は、その繰り返しの中での人との関わりによって、人の強欲さや冷酷さを悟ります。


金持ちの自分には寄ってたかる者たちが、いざ自分が貧困になると相手もしてくれない。

 

結局杜子春は老人の手にあやかることはやめて、そして老人の正体が仙人であることを見抜き、彼の元で修行をさせてほしいと頼みます。

 

しかし、仙人になる修行は彼の恐怖心や罪悪感をくすぐり、苦しみに晒されていきます。

 

彼は両親への罪悪感から仙人への道を諦め、貧困に戻りますが、仙人の修行は決して無駄ではなく、彼自身を人間として成長させたのでした。

 

この話は、目的のために全てを捨てることが愚行だということを比喩しているように思えます。

 

杜子春は目の前で虐げられる両親(幻想)を無視することができませんでした。

 

あのまま彼が修行を成功させていたとしても、彼には救いの手はなかったでしょう。

 

日本では努力や根性を尊重する、わけのわからない文化が根付いています。

 

私自身、根性や努力は嫌いではないですが、ただ闇雲に一辺倒に努力を重ねても何も得られないものでしょう。

 

自分で考え、選択する力があるからこそ、いざと言うときに努力や根性が輝くはずです。

 

シンプルな教訓として読んでみてはいかがでしょうか。