【短編】『恐怖』谷崎潤一郎
とても短い谷崎潤一郎の短編小説です。
1913年に大阪毎日新聞に掲載されたようです。
内容は至って簡単。
谷崎と思しき主人公が、乗り物酔いに対しての苦悩と恐怖を抱いているという、令和の現代からすればある意味滑稽な内容に見えなくもないです。
この話の感じからするに、当時はまだ乗り物に酔うという症状が世間では知られていなかったのでしょう。
谷崎が巧みな文章でそれを表しています。
そして、世間一般に知られていない乗り物酔いを、どう人々に説明したらいいのか、そんな自分だけの苦悩が閉塞的に語られているのです。
自分のことのように考えると、自分だけが車や電車に乗ったときに、独特の吐き気やムカムカを感じても、それを分かってくれる人がほかにいない。
それはまさしく恐怖なのかなと思います。
現代ですらも、まだ浮き彫りになっていない病はたくさんありそうですし、気まぐれめいた精神の変化や、これって自分だけかも...と思っている身体の症状も、近い未来病気扱いされるのかもしれません。
それにしても谷崎潤一郎は文章が上手いなあ、と改めて思いました。