【短編】『偶然の旅人』村上春樹
現代において、日本で代表的な作家を一人挙げるとしたら、村上春樹の名前は候補になるのではないでしょうか。
私たち20代の人間でも名前くらいは聞いたことある人は多いかと思います。
巷ではノーベル文学賞を受賞するのではないかといった、そんな噂も流れている日本を代表する作家です。
私たちよりも上の世代の人間には村上春樹の凄さがわかるかもしれませんが、いかんせん私たちの世代ではその凄さが伝わっていないように感じます。
読書を始めたての人が、村上春樹の名前を知り、代表作である『ノルウェイの森』を読み始めて、よく分からないままに読み終えてしまう、そんな流れが予想されるわけです。
実際、私もそんな流れで村上春樹を知りました。
そして特別熱中することもなく通り過ぎたのです。
私が村上春樹の凄さを知ったのはもっと別の長編作品になるのですが、その話はまた今度で。
今回は短編作品である『偶然の旅人』を紹介していきたいと思います。
村上春樹の文章は、少しクセがあると思う方もいるかもしれませんが、基本的にはそうそう読みづらい形にすることもなく、割と素直に表現しているので、おしゃれに聴こえがちなワードセンスに煙たさを覚えなければ大丈夫です。
村上春樹に対しての世間イメージは、「おしゃれなジャズを聴きながら毎日パスタを食べる主人公が出てくる話ばかり書いている作家」というものになりがちですが、いや実際そうなのですが、私としてはもっとシビアな村上ワールドにスポットライトが当たって欲しいと感じております。
そんな村上春樹ですが、彼の短編小説は個人的に大好きだったりします。
長編は長編でまた面白いのですが、短編はまた別の味があります。
『偶然の旅人』は、短編の中でもまた特に読みやすく、村上春樹には珍しくオチがはっきりしている作品です。
作者本人が読み手に直接語りかける場面から始まり、この話がノンフィクションであることを前提として説明した上で物語へと導入されます。
そして村上春樹自身が知人から聞いた、偶然が醸し出した奇跡のような出来事についてのエピソードが語られるのです。
偶然というものが、ただの巡り合わせの産物でしかなくとも、どこか因果的な運命として着目せざるを得ず、私たちの心に不思議なときめきをもたらします。
俯瞰してみるとただの自然の成り行きの一つなのですが、その偶然の出来事から繋がるドラマチックなものが、人の感動を呼ぶのです。
この話を50ページほどでまとめられている、その作者の手腕もまた魅力的ですし、村上春樹という作家を知る上でもおすすめの作品です。
個人的にはノルウェイの森よりも初心者におすすめでございます。
是非読んでみてはいかがでしょうか。