気まま図書館

小説の感想、解説を書いていきます。

2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

【短編】『恐怖』谷崎潤一郎

とても短い谷崎潤一郎の短編小説です。 1913年に大阪毎日新聞に掲載されたようです。 内容は至って簡単。 谷崎と思しき主人公が、乗り物酔いに対しての苦悩と恐怖を抱いているという、令和の現代からすればある意味滑稽な内容に見えなくもないです。 この話…

【短編】『杜子春』芥川龍之介

芥川龍之介といえば、『羅生門』を始めとし、教科書にも採用される比較的読むのに苦労しない短編が多いイメージです。 今作も昔の唐の国を舞台にはしていますが、わりと読みやすく、子どもにも読めそうな内容です。 主人公である杜子春は、貧困に陥っている…

【短編】『日々移動する腎臓のかたちをした石』村上春樹

村上春樹の『東京奇譚集』の第三作目です。 前回、前々回と引き続き村上春樹のレビューをすることになります。 久々に読むとやっぱり面白い村上春樹。 読みやすい文章に、何気ない現実。そこにほんのりミステリアスな雰囲気を携えた世界が魅力的です。 村上…

【短編】『ハナレイ・ベイ』村上春樹

昨日に引き続き、村上春樹の短編を紹介します。 タイトルにありますハナレイとは、ハワイのカウアイ島の町の名前だそうです。サーフィンやフラダンスが盛んな町で、日本でもサーファーがよく訪れるところとなっています。 今作はそのハナレイが舞台となりま…

【短編】『偶然の旅人』村上春樹

現代において、日本で代表的な作家を一人挙げるとしたら、村上春樹の名前は候補になるのではないでしょうか。 私たち20代の人間でも名前くらいは聞いたことある人は多いかと思います。 巷ではノーベル文学賞を受賞するのではないかといった、そんな噂も流れ…

【短編】『空の怪物アグイー』大江健三郎

小説には、その作家が強く意識しているものが物語によく登場します。 たとえば浅田次郎でしたらギャンブルが好きですので、パチンコ屋の店内とか、競馬場とかが場面として扱われるイメージです。 小川洋子の『博士の愛した数式』を読むと、あからさまにこの…

【長編】『コインロッカーベイビーズ』村上龍

多忙により読書をする時間がまともにとれないということで、昔愛読していた小説を語っていこうかと思います。 村上龍が作家デビューしてまもない頃に執筆したこの『コインロッカーベイビーズ』ですが、話の内容や、1972年頃に社会問題となっていた、産んだ赤…

【番外】「振り返りみたいなもの」

2021年にもなり、今更ブログを書きはじめることになりまして、少し時代遅れだという声が聞こえなくはないのですが、そもそも私自身が時代の流れにうまく乗れる生き物でもないものですので、古いも新しいもあったものではありません。これまでに載せてきた記…

【読書中】『カラマーゾフの兄弟』/フョードル・ドストエフスキー

あまりにも長い作品ですので、読み終えるまでにこうして何度か感想を考えていかないと、まとめきれないような気がしました。 しかしそれをしたとて、この文学界の大傑作とも言われているドストエフスキーの生年最後の作品は、うまく語れる自信もありません。…

【長編】『西海原子力発電所』井上光晴

井上「靖」だと思って図書館で借りた本でしたが、私の空目でして、井上「光晴」でした...。 井上光晴の名前は聞いたことがあったのですが、彼が作家という認識も朧げなものでして、実際手にとって数ページ読み進めて、そういえば井上靖ってどんな作家だった…

【中編】『セブンティーン』大江健三郎

皆さんは17歳の頃の、自分の感性や価値観を覚えていますか? 私はなんとなくあんな感じだったなとか、その当時の情景を記憶から掘り下げたときの独特な懐かしさから思い出せるものもあります。 10代といえば皆さんもご存知、多感な時期の真っ最中で、10代独…

【中編】『飼育』大江健三郎

このブログをはじめた頃の話です。 私は大阪市の1番大きな図書館で、文庫本にして800ページはありそうな、大江健三郎の自選短編集を借りました。 今回はその作品集にある一つをとりあげ、 大江文学の初期の作品、『飼育』について語ろうかと思います。 この…

【長編】『博士の愛した数式』小川洋子

このブログを開設してから、ひたすらに近代文学のレビューが多かったので、21世紀の小説について語ろうかと思います。 というわけで、今回は小川洋子です。このブログでは初めての女性作家ですね。 現代の女性作家といえば、恩田陸や宮部みゆき、角田光代な…

【短編】『刺青』谷崎潤一郎

谷崎潤一郎の短編小説です。 谷崎潤一郎の文学作品での基本的なコンセプトは、小悪魔的な女性についてのものが多いです。 妖しく繊細な美人が男性を食い物にし、弄ぶsadisticなシーンが目立ちます。 そこには谷崎が一種のフェチズム的な考えを女性に抱いてい…

【短編】『花火』永井荷風

永井荷風(1879〜1959)の短編小説です。 小説というよりかは、とても短い随筆のような形になっています。 文庫本で15ページほどの短い内容でありながら、明治時代の日本の激動に思いを馳せていく、主人公の心情が描かれています。 パリ講和条約の記念から打ち…

【短編】『死者の奢り』大江健三郎

大江健三郎の初期のデビュー作です。 私、大江健三郎がかなり好きで、ちょくちょく読んでいます。 5.6年ほど前でしょうか、『個人的な体験』という、これまた初期の作品を読んでから、一気に彼の作品に魅了されるようになりました。 巷での大江健三郎の評価…

【中編】『友情』武者小路実篤

突然ですが、私は恋愛が苦手だったりします。 理由はいろいろあるとは思うのですが、自分の場合は、人から人へ、自分から湧き立つ相手への好感度をぶつける行為が、居た堪れなくなりすごく苦手に感じたりします。 だからこそ恋愛というものは至極ロマンめい…

【短編】異端者の悲しみ/谷崎潤一郎

谷崎潤一郎の短編小説ですが、おそらく自分の体験が強く起因した作品となっているようです。 主人公の名は章三郎、大学を出、優等生としての才能を活かすことができないまま、実家にて放蕩の日々を過ごします。 そんな彼を、毎日あくせく働いている父や、家…

【ご挨拶】遅ればせながら...

2021年4月にさしかかった現在でも、コロナウイルスの感染は留まることを知らず、大阪では第4波が始まったのではないかとの懸念がなされています。 世の中の働き方も、趣味娯楽の形も変わりつつあり、私たちは以前のように軽々しく物事に取り組むことに足踏み…