気まま図書館

小説の感想、解説を書いていきます。

【中編】『飼育』大江健三郎

 

このブログをはじめた頃の話です。

 

 


私は大阪市の1番大きな図書館で、
文庫本にして800ページはありそうな、
大江健三郎の自選短編集を借りました。

 

 

今回はその作品集にある一つをとりあげ、

大江文学の初期の作品、『飼育』について語ろうかと思います。

 


この作品は大江健三郎がまだ
作家デビューしてまもない頃のものでして、
同じく初期の短編である『死者の奢り』とともに代表作として挙げられます。

 


この作品は芥川賞受賞作となりました。
大江健三郎がまだ23歳の時に連載が始まったものです。
20代前半の時点で芥川賞レベルのものを作り上げた大江健三郎の才能や知識量は凄まじいものです。
文章にも卓越さが感じられます。

 


短編の『死者の奢り』は

大学生の物語でしたが、
今回は少年がある事件を

経て一皮剥けた大人になる、

その過程の物語が描かれています。

 


舞台も、大学の解剖室から、戦時中の国の山奥にある集落に変わります。

 


この山奥の集落的な土地を、
大江文学内では「谷間」と表現され、
度々彼の長編作品の舞台として扱われます。

 

 

元々が森林面積の高い
四国出身の大江健三郎にとって、
山というのは彼にとって
大きな価値観を占めるみたいで、
ことあるごとに物語の舞台となります。

 


ただ今回は四国を舞台にしたものなのか、
その表現もなされておりません。
おそらくは日本のどこかであり、
主人公の少年たちは、自分たちの閉鎖的な
コミュニティである村の中で暮らしています。

 


閉鎖的であり、
近くの町の住民からは少し疎まれている、
そんな小さな世界が舞台です。

 


なので私たちが思い描くような、
少年らしい思い出とは少し違い、
戦争中などの舞台背景もあって、
甘酸っぱいものはかけらもありません。

 


当然といえば当然ですが、
前回読んだ小川洋子
博士の愛した数式』とは何もかも違います。

小川洋子のさっぱり感、
人々の温かみ、
日常の紆余曲折、
そんなものは一切ありません。

 

 

ここにあるのは
人間の動物的な生々しい臭い、
血や排泄物、
汗ばんだ黒人兵の肌感触などで、
それらは決して退けられることなく、
大江健三郎の芸術として
堂々と表現されます。

 


読む人によっては汚いものとして、

簡単に処理されてしまうものですが、
私はこの排他されてしまいそうな事象を
少年の成長物語の一つに統合しているところに、文学の可能性を感じました。

 

 

この感じは村上龍の文学にも通ずるもののように思います。

 


村上龍も最新ご無沙汰なので、
また読もうかなとも思いますが、
しばらくは大江健三郎の短編レビューが続きそうです。

 

 


それでもよければ読んでくだされ。

では。